2019/12/14(土)アクションカメラの冷却ユニット開発

珍しく技術的な話題で,少し長くなります.
手持ちのアクションカメラを勝手に改造した(といっても外付けユニットを作って取り付けただけの)話です.


IMGP3965.JPG
[撮影日時: 2019:11:23 11:01:33,焦点距離: 75mm,F値: 7.1,露光時間: 1/125s,ISO: 6400,EV: 0]

まだ軽かったときのアクションカメラ.

1 課題と動機と対策と

手持ちのアクションカメラ,Sony FDR-X3000は強力なブレ補正を持っている4K解像度対応カメラですが,
少なくとも,私の持っている個体は大きな問題を抱えていました.

それは,
  1. 4K等の高画質(つまり高負荷・高発熱)で録画するとカメラが発熱し,
    録画開始から10~30分くらいで熱暴走して録画が停止する.
  2. 録画停止に陥らなくても,長時間録画をすると発熱により
    センサー・レンズ間の距離が熱膨張で変化し,ピントがずれて眠い画質になる*1
という問題です.仕方がないので4Kで録画できるにも関わらず,
FHD(1920x1080)やHD(1280x720)画質に設定を落として運用していたんですけど,
それでも2のピントズレは生じてきます.特に車載動画で周囲環境が暑いとき*2

九州旅行に行った際も,このカメラを使って車載動画を撮っていたんですが,
帰ってきてみたときのガッカリ感といったらもう凄まじいものがありました.
せっかく遠くまで行ったのに,ピンボケ動画しか撮れてないんですからね!

その後,使うのが嫌になって先日まで放置していたんですが,
岩手に出掛けたときに久しぶりに使ってみて,やはりもったいないから何か対策してみるか,という気持ちになって,実行してみました.

上の1は恐らく仕様です…….2はたぶん個体差だと思います.
2は組み立て調整で許容値に入っているから合格,みたいな感じでしょう
(仮にそうだとしたら,設計者や許容値を設定した人は詰めが甘いといわざるを得ない.ほぼ不良品ですよね,コレ.).
もしかしたら全数検査していないのかもしれない…….

カメラの構造上発熱・温度上昇は免れません.小さな筐体で4K撮影時は恐らく10W程度の発熱.
しかも放熱はプラスチック製の部品からのみ.
追い打ちをかけるように,このカメラのセンサーを含む光学系(以下光学ユニットと略記)は強力なブレ補正を実現するために,
カメラの筐体から浮いたような状態で取り付けられています(後述の資料やメーカーの商品説明等による).放熱には大変不利な構造です.

対策をするには何とかしてカメラの構造・冷却すべき箇所等を見つけなければなりません.
自分で分解する勇気はない私は,ネットの海で参考になりそうな情報を求めて彷徨いました.
そして,見つけました.お目当ての情報を!
その名も「アクションカムHDR-AS300のピント補正」.九州大学の人の技術レポートみたいですが,
リンク先のPDFファイルに分解したHDR-AS300の写真が載っています.
FDR-X3000は,このHDR-AS300のセンサーユニット等を4K対応品に載せ替えた製品であろうことが推定できるので,
このレポートを参考に対策を考えました.

分解されたHDR-AS300を見る限りでは,光学ユニット外殻は金属製で,
カメラ本体とは配線の他に,いくつかの銅製の板バネのような部品で接続され,これが筐体部への放熱を担っているようです.
つまり,この放熱部分を適切に冷却できれば,安定動作とピンボケ画質の改善が見込めるものと思われます.
という訳で,冷却ユニットを自分で設計して取り付けてみることにしました.

*1 : 理由に関していえば,推定です.ちなみにこのカメラは固定焦点のカメラなので,ユーザー側でピント調節することもできません.

*2 : 車載動画撮影時はダッシュボードに設置しているので基本的に暑いため常時微妙なピント具合になります…….

2 冷却方法や構造の検討

まず,光学ユニット近傍の筐体は,いかなる発熱があろうとも室温付近でなければなりません.
このカメラは多少風を当てても筐体が温かくなる(室温+5~10℃以上)ため,
光学ユニット近傍の筐体に接する物体は空気の熱伝導率(およそ0.0241\text{[W}\text{m}^{-1}\text{K}^{-1}\text{]})を凌駕する物体で覆われている必要があります.
また,その物体は筐体と密着している必要もあります.

以上から,市販されている熱伝導シートの一種を使ってカメラと冷却ユニットを密着させることにしました.
この熱伝導シートの熱伝導率は3\text{[W}\text{m}^{-1}\text{K}^{-1}\text{]}と,空気の120倍ほどもあるようです.

熱伝導シートの外側の冷却ユニット本体は全て,アルミニウム合金削り出しとしました(つまりアルミニウムの塊…….).
アルミニウムは熱伝導率が236\text{[W}\text{m}^{-1}\text{K}^{-1}\text{]}と,非常に大きな値を持ちます.
電子機器やエアコン等の熱交換をする部品に広く使われている材料です.
アルミニウムの塊で光学ユニット近傍を覆うことで,熱を迅速・均一に光学ユニット近傍から逃がします.

アルミニウムの塊だけでは表面積が小さく,長時間経つと冷却ユニット自体も温度が上がってきます(実験済み).
十分な放熱を行うため,アルミニウムの塊に,発熱する電子部品用のヒートシンクを2個取り付けることにしました.
さらに,それを補うために40mm角の小型ファン(USB給電)も取り付けます.
ヒートシンクと空冷ファンは強力両面テープを使って固定します(ヒートシンクは上の熱伝導シートも使っています).

3 加工方法について

アルミニウム合金の塊の加工ですが次のような流れで行いました.
  1. スタイリッシュな曲線形状が多用されたデザインのため,
    写真を撮ってそこから輪郭寸法を決定し,図面を何らかのCADソフトで引きます.
  2. それをdxfファイルにエクスポートし,さらにそれをGコードに変換し,
    (ごく普通の一般家庭に存在する)卓上NCフライス盤で加工します.
    • 使用した材料は200mm×140mm×15mmくらいのA5052Pアルミニウム合金ほかです.
    • 適切にクランプし,切削油を適切にかけながら加工します.
  3. 加工品は卓上NCフライス盤の剛性に対して加工スピードを速めに設定した関係でバリ等が多く,
    紙ヤスリを使って根気よく表面を整えます.
  4. 脱脂洗浄して完成です.

4 そして出来上がったものは…….

およそ,民生品とは思えないゴツイものが出来上がりました.
冷却ユニット本体は,アルミニウム合金製の部品を全部で4個作って組み付けた構造です.
正面のマイクと録画時に点灯する赤色LEDはしっかり避けた構造になっています.
バッテリーとケーブル込みで,総重量は476g!!!
ちなみにカメラとバッテリーだけの重さは114gだそうです.冷却ユニットだけで360gもあります!アホですね…….

IMGP4134.JPG
[撮影日時: 2019:12:09 23:33:17,焦点距離: 60mm,F値: 8.0,露光時間: 1/60s,ISO: 12800,EV: 0]

IMGP4135.JPG
[撮影日時: 2019:12:09 23:33:42,焦点距離: 43mm,F値: 8.0,露光時間: 0.01s,ISO: 12800,EV: 0]

冷却ユニットの方が重いので,カメラを机に置くと冷却ユニット部だけで自立します.もはやカメラがオマケ状態です.
IMGP4136.JPG
[撮影日時: 2019:12:09 23:34:26,焦点距離: 43mm,F値: 8.0,露光時間: 0.01s,ISO: 6400,EV: 0]

底面部には三脚用ネジ1箇所ととM4の雌ネジを4箇所用意し,拡張性を確保しました.
IMGP4137.JPG
[撮影日時: 2019:12:09 23:34:54,焦点距離: 48mm,F値: 8.0,露光時間: 0.01s,ISO: 12800,EV: 0]

5 性能評価

さすがに重いだけあって,冷却性能は抜群のようです.
4K撮影時も,空冷ファンを回していれば,いつまで経っても光学ユニット近傍は冷たいまま*3
カメラ本体も少し温かいかなくらいの温度上昇で済みます.
空冷ファンを止めて,風が当たらない状態にしておくと,光学ユニット近傍は大丈夫ですが,
カメラの後部が昇温して高温警告が表示されます.特に,バッテリー付近が非常に高温になります.
長時間4K動画を撮影する際は,バッテリーカバーを開けて強制空冷するのが正解のようです.

そして,実際のビデオ画質の善し悪しについて.
次の2枚は,ほぼ同じ条件で対策前と対策後に録画をした動画のスクリーンショットです.
その後ろの2枚は,スクリーンショットの青看板付近を等倍で切り取ったものです.
人によって感じ方は違うと思いますが,差はわかると思います.
高画質を求めてこのカメラに手を出した人ならこの差の大きさがわかると思います.多分きっと必ず.

vlcsnap-00237.png

Before.2019年1月27日14時半頃.
vlcsnap-00236.png

After.2019年12月14日.季節と時間が微妙に違うため,Beforeよりも暗いです.
それでもこっちの方がシャープです.

vlcsnap-00237_kanban.jpg

Before.2019年1月27日14時半頃.
vlcsnap-00236_kanban.jpg

After.2019年12月14日15時半頃.見やすいように明るさだけ補正しています.

撮影条件は次の通りです.
項目内容
撮影モード『HD』 XAVC S HD
サイズ・ビットレート1080,30p,50M
画角設定M(ミディアム.35mm換算23mm相当の画角)
カメラ固定位置ダッシュボード付近
撮影開始からの時間約1時間30分

*3 : 温度計では確認していないので,主観が多分に入っていると思いますが,少なくとも温かくはないと思います.

6 結論とこれから

自作の外付けの冷却ユニットを取り付けることで,
FDR-X3000の画質・運用可能時間の改善に成功しました.
MicroSDカードの空き容量がなくなるまで,4K車載動画が撮影可能です!
4Kで画角が35mm換算17mm相当*4の超広角動画が撮れる機材はあまりありません.
旅行用の機材として,たぶんこれから活躍してくれることでしょう.

問題は,1時間半の4K動画を撮っただけで,ファイルサイズが60GBのMP4ファイルが出来上がる点です.
256GBのMicroSDカードを用意しても,録画可能時間は5時間少々…….
1週間とかの自動車旅行で,全行程を録画するにはとんでもない容量の記録メディアを用意する必要があります.
当面はメインの運用はFHD画質で記録して,魅力度の高いところだけ4Kで記録していこうと思います.

その内,車載動画かそのスクリーンショットをこのブログにも載せることがあると思いますので,ほどほどにご期待ください.

*4 : 製品仕様ではこのスペックになっていますが,ブレ補正で若干画角が小さめになっている可能性があります.